鹿児島で働く新61期のノキ弁が,仕事や法律について考えたことを吐出します。                         有用なアウトプットを生産すべく試行錯誤の日々の記録です。

2010年2月24日水曜日

屋久島雑感2

鹿児島に帰ってさっそく,KULSのニューズレターへの寄稿を依頼される。
人使いが荒いと思いつつ,隙間時間でやっつけました。
せっかくだからここにも転載します。

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リーガルクリニックA@屋久島に参加して

平成22年2月19日から22日かけて,屋久島の3会場で無料法律相談を行いました。
学生にとっては,日頃の学習の成果を地域社会に還元する貴重な機会であるとともに,
将来携わる法曹実務に触れることで,今後の学習目標を再確認する場でもあったと思います。
私見ですが,法科大学院における全ての学習は,新司法試験に繋がるものでなくてはなりません。
これには,教員側の創意工夫はもちろん,特に直接の試験科目ではない科目においては,
学生が主体的に目標を設定し,授業から新司法試験に活かせる知識・経験・思考を学び取る姿勢が不可欠です。
今回のリーガルクリニックを,新司法試験にどう活かすか。
私が感じたことを,以下簡単に述べたいと思います。
① 事実の整理
  試験問題とは異なり,生の相談で相談者から語られる事実は,所与のものではありません。
 実務家は,常に立証を意識して事実の確定に努めます。
 学習段階では軽視されがちな事実の重みを感じることが出来たのではないでしょうか。
  ただし,試験問題を解くにあたっては,問題文の趣旨をよく理解したうえで,
 出題者が想定していない事実に足を取られることがないよう,注意を喚起しておきます。
  また,相談者から流れ出る事実の洪水を整理し,記録するスキルについても,目の当たりにしたことと思います。
 相続関係図に代表される,複雑な事実を法律関係が分るように図表化する技術は,
 実務のみならず試験においても必須ですので,これを機会に習得してください。
② 要件事実の意味
  事実の聞き取り及び整理に際して,法律家の参照枠組(Frame of Reference)は要件事実です。
 普段,ある種のパズルとして捉えがちな要件事実ですが,
 相談の場において生の事実を整理する有効なツールであることを感得できたのではないでしょうか。
 学生のみなさんの聞きとりが,相談者に振り回されてわき道にそれてしまいがちなのは,
 この参照枠組みをしっかり意識できていないことが主因であると感じました。
 事前準備で何を聞くべきかを検討する際には,要件事実をしっかりと押さえることがまずもって重要になります。
 今回,時間的制約の問題もあるのでしょうが,この点の準備がやや不十分であった印象を受けました。
 生きた要件事実学習の場として,積極的に活用して欲しいと願います。
③ 解決手段としての各制度の有機的理解
  実体法の学習は,つまるところ法定の要件効果を基盤とした権利の存否の問題に帰着します。
 他方,手続法の学習では,やや細かい手続き的論点に目が行きがちです。
  しかし,現実の紛争解決は,多様な法制度を駆使して実現されるものです。訴訟のみならず,調停,審判又はADRなど,
 紛争解決システムの全体像を頭に置き,適切な手段を選択することが求められます。
 そのためには,各手続きの特徴とメリットデメリットをしっかりと理解し,相談者に分りやすく説明することが肝要です。
  手続き選択は新司法試験では,主に,行政法で問われるところですが,
 民事でもどのような手続きで解決するのかのイメージを持つことは,見えないところで答案に具体性を与えると思います。
④ タイムマネジメント
  今回のクリニックは,学生にとっては,かなりタイトスケジュールの中で行われました。本当に大変だったと思います。
 しかしながら,新司法試験においても,最後の最後はタイムマネジメントにかかってきます。
 与えられた時間の中で,必要十分なアウトプットを生産することは,試験でも実務でも,必須のスキルです。
 所与の時間に対して不満を述べるのではなく,その時間をどう活用すれば要求水準を満たせるのかというトレーニングとして,
 前向きに捉えたうえで,取り組んでみてください。
  また,法律相談におけるタイムマネジメントについては,相談内容の質と量を常に意識して,緩急をつけた柔軟な姿勢が求められます。
 相談者の話を遮る形になる場面もありますが,トータルで時間内に満足を得るという観点から行われていることに注目して欲しいところです。
 切るべきところは思い切って切る実務家のテクニックは,メリハリのある答案を書くに当たっても参考になると思います。
⑤ 相談者の希望にフォーカスすること
  実務家が相談に当たってまず把握しなければならないのは,論点でも判例でもなく,「相談者が何を望んでいるか」です。
 それが分らなければ,どの事実を聞けばよいかも分りません。これは,新司法試験に置き換えれば,「出題趣旨」を把握することです。
 事実の中に論点が見えたとしても,出題者が何を望んでいるかを把握しないことには,評価される答案は書けません。
 出題者の考えを念頭において,何を書いて欲しいと思っているのかを常に意識できれば,いわゆる論点羅列型の答案は生まれません。
⑥ プレゼンテーション
  今回,学生の力不足をいちばん感じたのがプレゼンテーションです。口頭発表の機会は普段あまりないでしょうし,
 新司法試験にも後述はありません。それでも,事前知識ゼロの聞き手に,簡潔に事案を理解させる能力は答案でも求められます。
 一読して試験問題が想像できる答案が優れた答案だと思います。もちろん,読み手の試験委員は問題作成者でもあるわけですが,
 問題文中で当然の事実を当然の事実として指摘するのと,分ってるだろうとの思い込みでまったく触れないのとでは,
 印象はだいぶ異なります。読み手を意識しない答案は,やはり良い評価には繋がりません。
  また,言葉遣いについても,色々な批判が出ました。法律家は言葉によって紛争解決するのが仕事ですから,
 その武器である言葉はクリスタル・クリアでなければなりません。あいまいな表現を避け,厳密な言葉遣いを意識してください。
 事実が曖昧であれば適切な場合分けが必要ですが,主張が曖昧な場合,知識不足か論理の破綻と考えられます。

 以上,思いつくままに述べましたが,実務科目であるクリニックにおいても,新司法試験に役立つものは,たくさんあります。
せっかく,時間と労力をかけて授業に取り組むのですから,そこから吸収できるものは貪欲に吸収し,試験に活かしてください。
法科大学院と新司法試験との関係は微妙なところもありますが,学生の意識しだいでは,かなりリンクすることが可能だと思います。
もったいない精神を忘れずに,今後の授業にも積極的に取り組まれることを祈っています。

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